アラウ／ベートーヴェン：ピアノ・ソナタ第3番＆第8番《悲愴》【西独盤】

ベートーヴェン
①ピアノ・ソナタ 第3番 ハ長調 作品2の3
②ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 作品13 《悲愴》

クラウディオ・アラウ（ピアノ）
録音：1986年〈デジタル〉

ドイツの正統的なピアニズムを継承したアラウが、最も得意としたベートーヴェン。古典的な端正な佇まいと、明晰で力強いスケール感が、初期の作品に気品を与えている。

アラウの奏でるピアノの音は、本当に深い味わいに満ち溢れ、豊かな音量と確かな技術にも裏づけられて聴く者を音楽の海に心地よく漂わせてくれます。中・低音の独特の歪み・濁りを伴った深い響きと、高音域の輝かしく美しく澄み渡る音色がアラウの持ち味かと思います。ゆったりとしたテンポ感と相俟って実に豊かな音楽世界に私たちを誘ってくれます。いつの時代でも評価されるべき、本当の巨匠だと思います。

晩年のアラウの録音。１つ１つ音を探るように弾いていて、じっくり聴きたいもの。特に、悲愴の第２楽章は、慈愛に満ちた演奏で聴いているものの心を魅了し、とても穏やかな気持ちにさせてくれます。色々聴いた後どうしてもアラウの演奏に戻っていまいます。1楽章冒頭から実に深みのある音がします。むやみに鍵盤を叩きつけず、懐の深い音が体を包み込みます。ここだけでも普通の演奏とは全然違います。完全に晩年のアラウの世界です。沈鬱な表情など、初期のベートーヴェンの曲にこれだけの意味深さがあったのかと感嘆してしまいます。そして2楽章。晩年のアラウ独特のポツポツ歩くようなアゴーギグが実に効果的。慈しむように奏でられる主要主題。何より感動的なのは主要主題が戻ってくるところで、リタルダンドをかけた後、主題が優しく優しく奏でられます。まるで寒い冬に手の中にある蝋燭の炎をかすかな風から大切に守ってあげているようです。このアラウの演奏を聴いてしまうと、他の演奏が聴けなくなるほど、繊細で優しさに溢れています。3楽章はアラウの演奏を聴いてしまうと、他の演奏はいかにもせかせかしていて、深みに欠けて聴こえます。懐かしさすら感じるアラウのピアノの懐の深さに身を浸したい心境です。

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盤面微すれありますが再生問題無し

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